十二話
十二話
「……はあ?」
呆れてしまった。アニメで見るような魔法陣が床に白墨で描かれていた。中心には一人の人間。司影にはデタラメな文句にしか聞こえない呪文めいた言葉を呟き、闇に浮かぶ白い左手には怪しげな呪符が数枚、右手には古風なつくりのダガーが握られている。明かりの正体は蛍光灯ではなく、燭台に灯された蝋燭。
その声が聞こえてしまったのだろう。そいつがこちらを振り向く。
「司影?! どうして?!」
焦りに満ちたその声には聞き覚えがある。
「っ! 昇?!」
驚き、司影は室内に一歩を踏み出す。
「馬鹿! 来るな!」
だが昇の警告は僅かに遅かった。
踏み出した足の先を伝って司影の全身に悪寒が走る。冷気によるものとは次元の違う寒さ。言葉に例えるなら魂を鷲づかみにされたような感触。思わず司影はその場に両膝を突く。ガランガラン、と木刀が硬質な音をたてて床に転がり、彼女は胸を掻き毟るようにうずくまる。
「くっ!」
焦燥をあらわにし、昇はそれぞれの手に持っていたダガーと呪符を投げ捨て、口で即座に左手の手袋を外す。
「我に定められしは絶対の式」
左手―何か紋様のようなものが刻まれた―を彼女に向けて、素早く十字に切る。
「汝に添えられしは伽藍の理」
掌に見えた紋様のようなものは刃で切り裂かれた傷。それが痛々しいまでに血のような赤光を周囲に放った。
「ここに汝の敗北は必定なり! 滅!」
普段の昇からは想像もつかない、凄絶な気合いが口から迸るのと同じくして赤い軌跡が司影に刻まれる。すると、床に膝を突いていた司影の表情が変わっていく。白から青、そしていつも通りの顔色に戻り……
「……あれ?」