三日月の絆

二話

二話

「端山ぁぁあ!」

ドォン、と教壇が名簿帳で叩かれる音。響くのは教師の怒声。

ひどく緩慢な動きで頭を上げ、古典の授業だったから多分石橋のハゲだなこの声は、と端山と呼ばれた少年―昇―は起き抜けのぼんやりとした頭で考える。

「この活用形を言ってみろぉ!」

チョークを黒板に叩き付け、その衝撃で白い粉が教壇にパラパラと落ちていく。そんな血管ぶちきりそうな勢いで喋べんなくてもいいだろよ、寿命が縮むぜ、と教師を怒らせた原因が自分にある事を棚に上げ、椅子に座ったまま昇は答えた。

「いづくの浦にも、心安う落ち着きたらば、それより迎へに、人をこそ参らせぬ。訳は『どこの浦にでも、気安く落ち着いたならば、そこから迎えに人をきっと参上させよう』。出展、バイ平家物語」

昇の回答を聞いた教師はこめかみを引きつらせている。活用形を言えと言われたのに答えたのは口語訳。しかも百点満点の。

「あってるっすよね? じゃ、俺、睡眠不足なんで。それとも廊下で寝た方がいいっすかね? 授業の邪魔になるっしょ?」

 そう言うと、不良学生は白の手袋をした左手で髪をくしゃくしゃと掻きつつ欠伸をし、廊下に出て行く。興味本位だろうか、何人かの生徒が廊下側の窓を開けて、ちらちらと昇の様子を観察している。