三日月の絆

断章

断章

真っ暗な空間だ。明かりの一つも灯されていない暗闇。でも不思議な事に闇の中でも自分の視力は正常に働いているようだ。空間を隅から隅まで把握出来る位には。

 この暗さは、夜? いや、ちょっと違う。なぜなら夜の風物詩である月と星が見当たらない。

 ……と、言うより、どっちが上でどっちが下なのかも曖昧だ。

「……まるで深海みたいだな」

 司影は自分の知識の引き出しを開け、ぽつりと呟く。

 くすくす。

 笑い声だ。声は女性のものだろうか。それどこからともなく聞こえてきた。ろくに考えもせずに足が声の主を求めて歩き始める。

 くすくすくす。 

 笑い声がよりはっきりと聞こえてくる。どうしてこの声は笑っているんだろうと司影は疑問に思う。本来なら上下の概念すらあやふやな、この空間の存在そのものを疑うべきなのに。

 くすくすくすくす。

 暗鬱な笑い声。聞いていて、嫌な声だ。字久のように生理的に合わない、という類のものではなく、それはある種の本能的な拒絶。

 もうすぐよ。

 トンネルで反響するかのように、闇のあちこちから声が聞こえてきた。

 もうすぐだわ。

 何がだ!

問い質そうにも、喉が動かない、声が出ない!

 ほら、見てみなさいよ。

 主語が入っていないのに、何故か何を見ればいいのかがわかってしまう。下、つまり足元に司影は眼を移す。喉が健在だったら、間違い無く悲鳴をあげていただろう。

 手だ。真っ黒でコールタールのようにヌメヌメした手が、自分の足元にびっしりとはえているのだ。足をつかむそれの力は異様なもので、動こうという意志がまず働かない。このままじゃ危ないというのは理解出来るのに。

 ふふふふ……あははははは!

 ドロドロとした昏い感情を包んだ声が、狂ったように反響する。

 それを合図としたように手が液体状の物質に変わり、自分の体を覆い始める! 

 足、膝、胴……

もう少し、あと少しよ!

 両手が覆われると次いで上半身全てが、意思を持つ黒に塗り潰されて……