三日月の絆

三十話

三十話

字久が唐突にテーブルを軽く右手で叩き、司影を人差し指で差す。司影や昇が字久の口をシャットダウンすることは常だが、字久が他人の言葉を遮るのは珍しい。

「それです、司影君。藁人形に髪を縫い込む。それが俗に言われる共感魔術・呪術というものなのですよ」

「人型に似せた人形は相手に似せるという意味から類感魔術、それに髪を縫い込むことから感染呪術。あとは『死ね、死ね』なんて叫びながら釘打つから意思呪術っすかね」

 は? と訳のわからなさそうな呟きを司影は洩らしてしまう。

「話をはしょりすぎです、昇君。まず、共感呪術というものは『金枝篇』で有名なイギリスの人類学者、フレーザー氏が提唱した魔術・呪術の根源的な法則の総括です。この概念はほとんどの呪術においてその効果の説明が可能な普遍的、かつ包括的、それでいて簡潔明瞭な法則であるため、これらの理論は現在魔術や呪術を理解する上では必須な知識なのです。そこまでは良いですか?」

 司影はもの凄く不機嫌そうに頷く。

「その共感呪術を大別すると二種の呪術に分ける事が出来ます。それが感染呪術と類感呪術です。感染呪術、別名『感染の法則』の考え方は『一度接触のあったものは、離れたあとも相互に影響を及ぼしあう』というものです。例えば肉体から切り取られた爪や頭髪あるいは愛用した衣服など持ち主のもとを離れたあとも、もとの所有者と繋がりを持つ、というように考えられます。これが丑の刻参りで人形に髪の毛を縫い込む風習のもとになるのです。類感呪術と違い、感染呪術に対する恐怖は現在でも非常に根深いものがあります。その例としては」