九話
九話
もし、高遠字久がいたら。
『おや、どうしたんですか司影君?』という切り口から始まり、一部始終を見ていたその情報から様々な憶測を付け加え、延々一時間は自分をからからうだろう。数日後には嘘という真っ赤な尾ひれを、強力瞬間接着剤でくっつけた話題が校内を席捲しているに違いない。
もし、端山昇がいたら。
格好がつかない……タンカ切って部室を出たのに、また戻るだなんてダサすぎる。これも間違い無く昇に馬鹿にされる。
だから、彼等が確実にいないであろうこの時間帯、閉校間際に鞄を取りに来たのだ。
蛍光灯の僅かな明かりを頼りに、下駄箱から内履きを取り出し乱雑にそれを床に落とす。ぱーん、という景気の良い音が漆黒に響く。
閉校までは三十分程あるから閉じ込められる心配もない、用事はすぐに済む。そんな事を考えながら三階の部室に向かう。踏み締める階段はいつもより重く感じられ、自分の息遣いが明瞭に聞こえる。
「……ヤッパ、早く来た方がよかった」
少々震える声。
「パッパと鞄取って帰ろう」
部室の前まで辿り着くと、ギイギイと貧相な音を立てる戸を力任せに引く。明かりをつけ、目的の物を視界に入れると司影は中身を確認。
「……良し。じゃ、とっとと」
帰ろう、と言い出そうとしたその時。